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オーガー(Augur: REP)、ノーシス(Gnosis: GNO)などの仮想通貨は、予測市場型の仮想通貨と呼ばれています。ここでは、予測市場型の仮想通貨とは何を指すのか、それぞれのコインの特徴、その応用範囲について解説します。
予測市場とは
まだ起きていない事象について将来どのような結果になるか、それを予想しようとすると、人によってさまざまな意見・予想が出てきます。ここで、正しい予想をして結果を的中させた人に評価のしるしとして金銭的報酬を与える、というものが予測市場です。
競馬が典型例です。競馬においては、まだ起きていない将来の事象は、「レースで1位になる馬」です。そして、競馬に参加する人たちはどの馬が1位になるのか結果を予想し、参加者の中で正しい結果を的中させた人が配当金を得ることができます。これが予測市場です。
競馬に限らず、ギャンブルというものは未確定の結果を予測することで金銭を稼ぐものなので、すべて予測市場といえます。しかし、近年では予測市場はギャンブルの分野にとどまらず、さまざまな分野での需要が見込まれています。例えば、予測することが難しい天候や勝負ごとなどに収益が大きく左右される事業と相性が良いといえます。
天候によって大きく収益が変わる農業においては、天候不順による収穫の激減が一番のリスクです。しかし、農業でも予測市場を利用すると簡単にリスクヘッジすることができます。天候が悪くなる予想を出しておき、予測市場で契約を購入しておきます。この場合、天候が良ければ農作物による利益が契約の購入金を上回り黒字となり、天候が悪くても予測市場からの報酬による収入で黒字を見込むことができます。
このように、予測することが難しいものである天候は、予測市場の分野で非常に注目を集めています(天候デリバティブ)。これらは農業だけにとどまらず、スキー場や景勝地などの観光産業や、屋外スタジアムなどを利用するスポーツ業界などとも関連が深く、潜在的な市場としてはかなり大きいでしょう。
しかし、実際に予測市場の導入がさほど進まないのには明確な理由があります。予測市場を利用するには、予測を行う利用者の他に、各利用者の予測内容を正確に記録し契約の販売額や各結果における配当金を決定する胴元が必要となります。
そこで大きな問題となるのが、予測市場が成立するには胴元と利用者との間の信頼関係が前提となるということです。胴元が予想の結果を適切に評価し配当に反映させることができるかという基本的なところから、胴元が配当を実際に支払うのかという本質的なところまで、信頼関係の上に成り立っています。
現状では、信頼関係の構築に十分な透明性が確保されていないため、予測市場の導入が進んでいません。そこで誕生したのが、予測市場型仮想通貨です。
予測市場型仮想通貨とは
予測市場の導入においてボトルネックとなっていた、胴元と利用者の間の信頼関係という問題を解決するために、胴元が行っていたことをブロックチェーンなどの仮想通貨の技術で応用するのが予測市場型仮想通貨です。
予測市場において信頼関係が必要となっていたのは、大まかに分けて次の2つです。
・予測内容の適切な管理:各利用者の予測内容が改ざんされずに保存される
・配当の履行:胴元は必ず配当金を分配する
これらをコンピュータに実行させることにより、”トラストレス”に予測市場に参入することが可能となります。
利用者が予測市場に参入する際、予測の内容を決定し契約を購入すると、これらの内容がブロックチェーン上に書き込まれます。たとえ予測内容の改ざんが行われてもブロックチェーン上の記録と一致しなくなるため、改ざんが行われたということが簡単に確認できます。このようにブロックチェーンの改ざんが不可能であるという性質を利用します。
次に、予測が行われていた出来事が起こり結果が明らかになると、配当金の配布が実行されます。ここでも、胴元による送金ではなく、契約内容に一致した場合にのみ必ず送金が行われるイーサリアムのスマートコントラクトの技術を利用して送金が行われます。このため、予測市場型仮想通貨はイーサリアムをベースにして開発が進められることが多くなっています。
さらに、人間が担っていた胴元を廃止することで、胴元の取り分(手数料)が不要になるので、より公正な市場を作り出すことができます。
有名なコインの紹介
それでは、予測市場型仮想通貨にはどのようなものがあるのでしょうか。
オーガー(Augur)
2017年11月28日段階で時価総額31位にランクインしているのがオーガーです。
オーガーは「未来を予測するためのシステム」の構築を目指して、ブロックチェーン技術と予測市場を融合した仮想通貨です。正確には、オーガーは予測市場において賭け事を各ユーザーが自分で作るためのプラットフォームで、オーガーというシステムの中で使われる通貨はREP(Reputation)です。
オーガーでは、各出来事の結果を評価するために「レポーター」と呼ばれる役職を設定し、各レポーターの出来事の結果の報告にもとづいて結果を評価します。各レポーターの報告内容を総合し、多数派の結果を「正しい報告」として扱い、「正しい」報告を行ったレポーターにはREPが付与されるため、レポーターは正しい報告を行うよう動機づけられています。また、オーガーは予測市場を仮想通貨で普及させることにより、各ユーザーに正しい予想を行うインセンティブを与え、集団の知でより正確に未来を予想することを目指しています。
予測市場という市場の特徴上、ヨーロッパで人気があります。保険業界への進出が期待されているという側面もあり、通貨としての需要は十分あるでしょう。仮想通貨を用いない予測市場に比べ、手数料が圧倒的に安く済むことや、トラストレスで機能することなどにも期待が集まっています。
しかし、オーガーはアップデートや仕様変更などに乏しく、ここ3カ月は減衰気味です。毎週Weekly Development Update(週ごとのアップデート)の情報が公式のブログで公開されていますが、マイナーチェンジが大半なため価値が大幅に上がる理由としては乏しいといった現状です。将来的になくなる可能性が高い通貨というわけではないですが、目前に大きなアップデートなどがないため投機家が興味をあまり示していないというところが大きいでしょう。
また、オーガーに関する懸念としてよくやり玉にあげられるのが、レポーターによる報告の精度です。ネットには不正確な情報も多く、このような情報が出回っているような分野では誤った情報を報告してしまうような可能性が否定できないということです。故意にであれ意図せずであれ、誤った情報を報告するレポーターが正しい報告をするレポーターを上回ってしまうと、正しい予想をしていた人に配当金が付与されず、予測市場のシステムの根幹が揺らいでしまいます。このような懸念をどのように解決するかが今後の課題となってくるでしょう。
Gnosis(ノーシス)
ノーシスもオーガー同様にイーサリアムをベースとして発達した予測市場型仮想通貨ですが、いくらか異なる点があります。
ノーシスのホワイトペーパーによると、オーガーは予測市場を生み出すための中心地であるのに対し、ノーシスは予測市場のアプリケーションを生み出すためのプラットフォームであるという違いがあります。イーサリアムのブロックチェーンをベースとして、その上にノーシスの3層のレイヤーが開発されていて、予測市場のアプリケーションを開発する際これらのレイヤーを利用することができます。
また、オーガーでは予測の正確性を評価するためにレポーターの報告による多数決を採用しているのに対し、ノーシスで開発されたアプリケーションでは出来事の精度を評価するために中央集権的な評価体制を採用しています。オーガーではレポーターによる報告を待ち集計する必要性が生じるため、結果が明らかになってから配当金が付与されるまでに時間がかかりますが、ノーシスでは集中管理することで迅速な対応が可能です。
ノーシスの時価総額は2017年11月28日現在で時価総額64位です。ノーシスの価値はオーガー同様ゆるやかな下降をたどっています。ノーシスの開発者は集中管理型の結果評価体制が良いと主張していますが、一長一短あるため、オーガーを超えることはそう簡単ではないでしょう。
また、ノーシスは上場はしているものの取引があまり行われていない取引所も多く、こういった取引所ではノーシスの取引を好条件で行いにくいため、特定の取引所への偏りが解決されずにいる現状です。
予測市場型仮想通貨のこれから
予測市場型仮想通貨は、保険事業への展開が最も期待されていますが、こうした事業との結び付きがまだありません。保険会社からすれば、予測市場型仮想通貨が普及すれば、保険会社としての必要性がかなり薄れてしまうため業務提携を打ち出すメリットがあまりないのでしょう。このようなジレンマをどう解決するかが重要になってきます。
また、今の仮想通貨市場が将来的な実用性以上に目前の利益といった投機的な意味合いが強いため、将来的に実用性があったとしても大型アップデートなどがなければ価値が上がりにくいという現状があります。予測市場型通貨は将来的な需要という面では有望であるにしても、短期的に利益を出したい投資家はあまり興味を示していません。
しかし、特にオーガーでは継続的な開発が続けられていて、将来的な実用性を獲得することも期待できるでしょう。