ビットコインキャッシュ(BCH)とは?その正体に迫る
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ビットコインキャッシュ(BCH)とは?ビットコイン(BTC)との違い
ビットコインのスケーラビリティ問題をめぐるコアデベロッパーと大手マイニングプールとの亀裂から、マイナー主導によって8月1日に誕生したビットコインキャッシュですが、ビットコインとビットコインキャッシュの通貨としての違いはどこにあるのでしょうか。
最も大きな違いとしては、ブロックサイズ問題へのアプローチです。
ビットコインは、9月29日現在ではSegWitにより1つのブロックの中のトランザクションを増加させる方法のみを取っていて、ブロックサイズの上限はまだ1MBのままです。
これに対しビットコインキャッシュでは、SegWitをまったく導入しておらず、代わりにブロックサイズの上限を8MBに引き上げています。
次に大きな違いとしては、ビットコインキャッシュでは新しくEDAと呼ばれる制度が取り込まれたことです。EDAとはEmergency Difficulty Agreementの略で、マイニングの難度に関する新たな規定です。
マイニングとは、前のブロックのハッシュ値と当該ブロックの文字列、そしてナンス値をハッシュ関数に入力した出力結果が「ある条件」を満たすようなナンス値を求める計算作業のことです。ハッシュ関数は逆向きには解けないという性格をもつので、さまざまなナンス値を実際に代入して「ある条件」を満たすか実際に試行することになります。このため、マイニングの作業の難しさは、この「ある条件」の厳しさに依存します。
さて、このEDAとは12時間に6ブロックしか生成されないほどにマイニングのスピードが低下したときには「ある条件」の厳しさを緩和し、マイニングの難度を下げることを約束するものです。これにより難度が下がると、マイナーは1つのブロックのマイニングに必要な計算量・電力消費量が低下するため、手数料収入の利益率増加が見込めます。
なお、これに付随してNDA(Normal Difficulty Agreement)という規定により2016ブロックごとにハッシュレートを求め、前の2016ブロックに比べて劇的にハッシュレート(採掘力)が上昇すれば「ある条件」を厳しくする、と定まりました。
実は、このEDAの難度調整が、ビットコインキャッシュ誕生の陰で大きな役割を果たすことになります(詳細は後述)。
ビットコインキャッシュ(BCH)に対する取引所の反応
ビットコインキャッシュ誕生時の取引所
ビットコインキャッシュのコインとしての性質を押さえたところで、ビットコインキャッシュの現状についてさまざまな方面から見ていきましょう。
まずは、ビットコインキャッシュを取り扱っている取引所です。
8月1日のビットコインキャッシュ誕生時には、多くの取引所はビットコインキャッシュの扱いについて判断を下しかねていました。というのも、ビットコインキャッシュがハードフォークを起こして分裂する前からビットコインキャッシュの先物取引が活発だったからです。
特に、ビットコインキャッシュハードフォークを中心となって推進したViaBTCは取引所兼マイニングプールなのですが、この取引所では、ハードフォークを1週間後に控えた7月24日時点で1BCH=0.2BTCという値段を記録していました(下図参照)。
この値は多くの人々の予想を大きく上回り、さまざまな憶測を呼びました。なぜなら、ビットコインキャッシュが本当に誕生するのか、誕生しても存続していけるのか、そんな懐疑的な見方が多かったからです。
これを受けて、ビットコインキャッシュを一切取り扱わないとしていた取引所も含め多くの取引所が、上場後安定が見られれば取り扱いを開始するといった立場を表明するようになります。
このような状況のなか誕生直後から取り扱いを開始した取引所は、OKCoin、VitBTCといった中国の取引所や、Bithumb、Korbitといった韓国の取引所が大勢を占めました。
中国と韓国の取引所
先物取引で大方の予想よりも高い価値が付いたものの、分裂後すぐビットコインキャッシュをビットコインに交換する動きが強まりビットコインキャッシュの価値が暴落する可能性もまだありました。これが多くの取引所が「一定期間後取り扱いを開始する」として立場を明確にしなかった理由です。
それでは、どうして中国や韓国の取引所は、分裂直後からビットコインキャッシュの取り扱いを開始することにしたのでしょうか。
ViaBTCはビットコインキャッシュを作り出した張本人なので、ビットコインキャッシュの取り扱いを行わないわけがありません。しかし、他の中国内の多くの取引所も取り扱いを開始しました。それには次のような国内情勢が関係しています。
そもそも、中国は電気代が比較的安いことから大手マイニングプールが多数存在し、こういったマイニングプールはASIC BOOSTというマイニングを簡単にする手法を用いていました。しかしビットコインのコアデベロッパーはそういった手法がマイナーの寡占化につながるとして忌避しようと試みていました。これがマイニングプールの反感を買い、ビットコインがハードフォークした原因の1つとなりました。このため中国系のマイニングプールはビットコインキャッシュを支持するだろうという見方が濃厚となり、中国国内ではビットコインキャッシュの支持率が高まったと考えられます。これが1つです。
これに加えて、中国国内ではビットコインに対する当局の監視が強まり、規制強化の一途を辿りました。このため、ビットコインの価値は下がるという見方が強まり、実際ビットコインは一定期間下落を続けました。そのため、中国内においてビットコインと同程度の汎用性、利便性を保持したビットコインでない仮想通貨、つまりはビットコインキャッシュが渇望されていました。
こうした流れのなかで誕生したビットコインキャッシュは、ビットコインよりも取引手数料が低く承認時間も短かったため、否応なく期待度が高まりました。これが2つ目の理由です。
次に韓国です。
韓国で仮想通貨が注目を集めるようになったのはつい最近のことです。アメリカや中国などの市場はビットコインの成長とともに数年かけてゆっくり整備されたのに対し、韓国は今年の春に突然仮想通貨市場ができたようなものでした。そのため、他の国に比べて投機目的の割合が高く、韓国以外の国での価格よりも高いプレミアム価格でやり取りされることで知られています。
韓国の仮想通貨市場では短期差益を狙った投機家が多く、こういった人たちがビットコインキャッシュに目をつけて買い占めたとみられています。 ビットコインキャッシュの初期の高騰は主に韓国の投機家の牽引によるもので、実際8月5日時点で韓国の大手取引所Bithumbでは、他の取引所の2倍の価格で(BCC/BTC)取引されていました。
その後の取引所の動向
さて、その後ビットコインキャッシュの取り扱いをしている取引所の割合はどのように変化したのでしょうか。
こちらが10月2日現在のビットコインキャッシュの取り扱いをしている上位取引所リストです。
一方、こちらは10月2日現在のビットコインの取り扱いをしている上位取引所です。
ここからわかるように、ビットコインキャッシュはビットコインに比べて、
・HitBTC、Bithumbのように特定の取引所への依存度が大きい
・そもそも取り扱いをしている取引所が特定の国(主に韓国、香港)に偏っている
といった特徴があります。
ビットコインキャッシュ(BCH)が多く取引されている国
取引所にこのような偏りが生じているビットコインキャッシュですが、取引通貨に偏りはないのでしょうか。こちらがビットコインキャッシュの通貨ごとの取引総額で、韓国ウォンの多さが目立ちますが、それでもビットコインが半分近くを占めています。
そこで、ここからBTCとETHを除いた通貨で、取引総額のうち何%を占めているのかを算出しました。すると、韓国ウォンが占める割合が70%近くにもなることがわかりました。
順位 | 通貨 | 割合 |
1 | 韓国ウォン(KRW) | 67.48% |
2 | USドル(USD) | 25.63% |
3 | ユーロ(EUR) | 2.07% |
4 | 中国元(CNY) | 1.95% |
ICOを全面禁止し、仮想通貨への監督強化を表明したばかりの韓国政府ですが、ビットコインキャッシュの今後を占ううえで、韓国市場の動向は無視できないでしょう。
マイニングプールの対応
通貨や取引所関連の情報からは韓国の影響が極めて大きいことがわかりましたが、もともとは中国のマイニングプールが作ったビットコインキャッシュです。彼らの影響は受けないのでしょうか。
ビットコインキャッシュ高騰の陰にある思惑
実は、ビットコインキャッシュ価格の高騰にはマイニングプールの動向も関係しています。アルトコインには実際に取引が決済されるのかという不安がつきまとうため、大手マイニングプールがマイニングを始めるということが大きな信用を生むからです。
そのため、それぞれのマイニングプールは、
・1回のマイニングによってどれほどの利益が得られるのか
という短期的なビジョンと、
・今後マイニングし続けるとコインの価値が上がるのか、そしてそれが自社に有利に働くのか
という長期的なビジョンをもってマイニングの検討をしています。
特に、ビットコインとビットコインキャッシュでは互換性が高く同じ手法で両方のコインのマイニングを行えるため、どちらのコインをマイニングするかという戦略が重要になってきます。
EDAの作為的な発動とその阻害
そのような戦略の一例として、EDAの作為的な発動が挙げられます。
ビットコインキャッシュがハードフォークを起こして分裂する段階で、一部のマイニングプールはビットコインキャッシュのマイニングを行うことを表明していました。このようなマイニングプールは当初ビットコインキャッシュのマイニングを行っていましたが、ビットコインキャッシュはビットコインよりも価値が低く、なかなかマイニングで利益を得られませんでした。
そこで、作為的にEDAを発動させてビットコインキャッシュのマイニングにかかる経費を抑えることが必要になりました。具体的には、意図的にハッシュレートを下げることでEDAを発動させ、難度の下がった状態でマイニングを行うことで電気代を節約することを狙ったのです。
多くのマイニングプールが結託してマイニングを一切行わなければ、このEDAを発動させることができます。この戦略は、先ほど述べた短期的なビジョンでも長期的なビジョンでもビットコインキャッシュのマイニングプールにとって利益をもたらすため、最初は成功しました。
しかし、ビットコインキャッシュ分裂を最も快く思わないのは当然、ビットコイン派の人々です。こうした人たちはビットコインキャッシュが大きくなりすぎることを懸念していました。そのため、ビットコイン派のマイニングプールはビットコインキャッシュのマイニングの採算が合わなくなることを願っていました。ビットコイン派は、ビットコインキャッシュ派のEDAの作為的な発動の意味に気づき、それを阻害しようとしました。
ビットコインキャッシュ派は、EDAを発動させるため12時間に6ブロックしか生成しないということを実行していました。ビットコイン派はここで余分にもう1つのブロックを生成することでEDAの発動条件を満たさないようにしたのです。
ここで面白いのは、ビットコインキャッシュをマイニングすることは一見短期的なビジョンからも長期的なビジョンからも利益が出ないことです。ビットコインよりも価値の低いビットコインキャッシュをマイニングするくらいならばビットコインをマイニングするほうが利益が期待できますし、ビットコインキャッシュをマイニングすることでビットコインキャッシュの信用が上昇すればビットコイン派からすると問題です。
しかし実際は、もともと12時間に6ブロックしか生成されないコインが7ブロック生成されたところでどちらにせよ大した信用は得られません。むしろ、これによりビットコインキャッシュ派のマイニングプールの採算が合わなくなり、ビットコインキャッシュのマイニングがその後順調に進まないほうが利益になります。これが、ビットコイン派の本当の長期的なビジョンです。
ビットコイン派のマイニングプールとビットコインキャッシュ派のマイニングプールはこのような駆け引きを繰り返してきました。
現在のマイニング勢力図
それでは、現在マイニングプールの動向はどうなっているのでしょうか。
こちらがビットコインキャッシュのマイニングプールのシェアを示すグラフで、ビットコインキャッシュ派が多数派となっています。
一方、こちらがビットコインのマイニングプールのシェアです。
この図からわかるように、今ではビットコインキャッシュ派のマイニングプールは同時にビットコインのマイニングもしていて、ビットコインの半分以上がビットコインキャッシュ派のマイニングプールによってマイニングされているのです。
これは、一体どういうことなのでしょうか。
下のグラフは、ビットコインキャッシュをマイニングした場合の利益と、ビットコインをマイニングした場合の利益の比率を表したものです。100%のラインを上に超えているところがビットコインキャッシュをマイニングしたほうが利益が大きいことを表しています。
ここまで説明したように、ハッシュレート(採掘力)を調節することで、1回のマイニングにかかる計算量が減少し利益率が上がる仕組みになっているのですが、実はビットコインキャッシュのマイニングの難易度は、下のグラフの通り、初期に大きく下げられて以降は大きく変化していません。
先に説明したEDAの作為的な発動が行われたのは、ごく初期のうちだったのですが、それ以降は難度を維持するためハッシュレートを上げすぎなようにしていました。そこで余ったコンピュータをビットコインのマイニングに費やすことを選択したのです。
ビットコインのマイニングとビットコインキャッシュのマイニングの手法が同じため、その時々のビットコインの価格とビットコインキャッシュの価格を見比べて、それに応じてマイニングする利益率の高いほうを選択する。それが現在のビットコインキャッシュ派の戦略になったといえるでしょう。
補足ですが、ビットコインキャッシュ派のマイニングプールがマイニングの利益率に応じてマイニングするコインを変更するため、極端な例では大手のマイニングプール以外の匿名マイナーによって9割近くを占められるようなこともありました。
これは9月5日のデータですが、通常の仮想通貨の場合、このような状態は51%攻撃を受ける可能性があり危険な状態です。しかし、ビットコインキャッシュに関しては匿名マイナーが実は大手マイニングプールであるという噂もあり、とくに心配はないという意見が多数派です。
さて、話を元に戻すとビットコインキャッシュに関してはマイニングプールがあまりコンピュータの負荷をかけずにマイニングすることが可能な状況ができているため、今後ユーザー数が増加してもビットコインのように取引手数料の増加や承認時間の遅延といった問題が生じる可能性が低いといえるでしょう。
怪しい雲行き
結局のところ、ビットコインキャッシュとは一体どのような通貨なのでしょうか。
ビットコインと比較すると、
・取引所や取引される通貨には偏りがあり、普及度では劣る
・しかし、マイニングプールの利害関係の影響でマイニングの難度が低く抑えられているため、取引手数料や承認時間などスケーラビリティ問題には強い
こういった特徴があります。
また、ビットコインと比べると一長一短ではあるものの、他のたくさんのアルトコインを差し押さえて時価総額3〜4位に上り詰めたのは圧巻です。
加えて、マイニングに対する報酬または他の通貨との交換という形で配布されたすべてのビットコインに対し、ビットコインキャッシュを平等に無償配布することで、何の裏付けもなかった通貨にここまでの価値をもたせたのは、本当に見事としか言いようがありません。
しかし、ビットコインキャッシュはビットコインのコピーとして生まれたことは紛れもない事実です。こうしたコピーの成功を見て、第2、第3のビットコインキャッシュが生まれてくる懸念があります。もし、そのようなモラルハザードを招くことになれば、仮想通貨というものの存在意義が問われることになりはしないでしょうか。
実際、来たるSegWit2xに備えて、新たな勢力がハードフォークを起こす可能性が出てきています。
これからビットコインはどうなっていくのか。ビットコインキャッシュの他にもビットコインから分岐するコインが本当に現れるのか。
事態は風雲急を告げていますーー。