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ビットコインキャッシュの野望

ビットコインキャッシュの野望

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2017年8月1日に誕生し、あっという間に時価総額4位に上り詰め、それをいまだに維持しているビットコインキャッシュ(BCH)。もともとはビットコインのフォークコインでしかありませんでした。

2017年の後半以降、主に中国人マイナーによるビットコインからのフォークコインが相次いで生まれることになり、無償でエアドロップされるフォークコインを求めて振り回された人も多かったことでしょうが、これらのフォークコインの先鞭を付けたのがビットコインキャッシュです。

他のフォークコインがビットコインキャッシュのように成功するのかは疑問ですが、ビットコインキャッシュの登場が仮想通貨市場に与えた影響は計り知れないものがあります。なぜなら、ビットコインキャッシュの登場によって、ビットコイン(BTC)の弱点がクローズアップされてきたからです。

ビットコインキャッシュはなぜ誕生し、どのような戦略をもって成功し、そして何を目指そうとしているのか。今年の一年を振り返ってみましょう。

ビットコインのスケーラビリティ問題

香港合意

ビットコインはその誕生以来、順調に利用者を伸ばし、その結果、取引の数も膨大になってきました。そのため、取引の承認の過程で数が多すぎて処理しきれなくなり、

・取引が実際に有効なものとして承認され(ブロックに取り込まれる)、それが取り消されないものとなる(10ブロックが経過する)までに長い時間を必要とする

・取引手数料が高くなる

といった問題が生じてきました。これがビットコインのスケーラビリティ問題です。そこで2016年2月にSegWitという技術で問題解決を図ることが合意されました。これが香港合意です。合意内容についてはこちらの記事で述べられています。

要約すると

・SegWitはリリースされた2カ月後に実装される

・SegWitは実装された後、ビットコインのコミュニティからの広い支持があった場合にのみnon-witness data(SegWitにより署名を分離されたデータ)の拡張をハードフォークで行う

・SegWitもハードフォークもビットコインコア(ビットコインのコアデベロッパーが提供しているウォレット)と互換性のある形でしか行われない

ということになります。

そしてこの合意に署名したのが、

<開発者>
ビットコインのコアデベロッパー
Blockstream(ビットコイン開発会社からアダム・バック氏、サムソン・モウ氏)

<中国の大手マイニングプール>
Bitmain(Antpoolを傘下に持つASIC BOOST製造会社)
Antpool
F2 Pool など

<取引所>
BTCC(中国)
OKCoin(中国)
Huobi(中国)
Bitfinex(香港)など

といった面々です。今ではバラバラとなっているコア派と中国勢陣営が、香港合意の段階では一枚岩となっていました。

ビットコイン・アンリミテッド(BU)

しかし、ここで誕生したのがビットコイン・アンリミテッド(BU)です。ビットコイン・アンリミテッドは、ビットコインのブロックサイズを自由に変化させるべきだと考え、必要に応じてブロックサイズを拡張できるようなプロトコルを開発しました。

また、香港合意のように一部の開発者だけで方針を決定するような中央集権化や言論統制といった方向にコミュニティが進んでいることへの反発から、ブロックサイズの決定に民主主義的なプロセスを導入しようとしました。

さらに、オフチェーンの開発を進めるとコアデベロッパーとBlockstream社に権力が偏在することになるため、これを防ぐ狙いもありました。もともとビットコインのスケーリングに対してブロックサイズを拡大させるべきだと主張してきたさまざまな陣営を取り込むとともに、多くのマイニングプールからの支持を得ました。

そして、ビットコイン・アンリミテッドが分裂して誕生する可能性が現実味を帯びました。これがビッグブロック派の動きです。

これに対して危機感を抱いたビットコインコア派が取った戦略がUASFです。8月1日に強行的にSegWitを導入し、SegWitを導入しないノードはビットコインのネットワークから切り離すことにしました。

さらには、取引所が合同で、ビットコイン・アンリミテッドが誕生した場合にビットコイン・アンリミテッドがビットコインのハッシュレートを上回ったとしても、ビットコイン・アンリミテッドを正統のビットコインと見なすことはないとする声明を発表しました。

これにより、ビットコイン・アンリミテッドがビットコインの価値をそのまま引き継ぐことはできなくなりましたが、それでもビットコイン・アンリミテッドの人気は失速しませんでした。ビットコイン・アンリミテッドにはハッシュパワーを有する中国勢のマイニングプールがついていたため、ビッグブロック派の中でも急進派に位置付けられるような人たちはビットコイン・アンリミテッドのハードフォークを推し進めようとしていました。

このなかでひときわ目立った存在だったのが、ジハン・ウー(Jihan Wu)氏とロジャー・ヴァー(Roger Ver)氏です。

ジハン・ウーは中国の大手マイニングファームBitmain社のCEOで、Antpool社も傘下に持つ大きな影響力を有する人物です。

ロジャー・ヴァーは”ビットコインの神”とも称される人物で、初期のころからビットコイン関連事業の多くに出資をしてビットコイン普及に大きく貢献してきました。マイニング事業も手がけるBitcoin.comのCEOです。

ビットコイン・アンリミテッド(BU)をビットコインとは認めないとする取引所の共同声明に対してジハン・ウーは、取引所の不公平な姿勢を非難しました。

さらに、Bitmainが継続的にビットコイン・アンリミテッドをサポートするという立場を明確にしました。

そして、4月にはUASFに対抗してUAHFを起こすとツイートしています。

UAHFとはUser Activated Soft Forkの略であるUASFに対して作られたUser Activated Hard Forkという言葉で、ユーザーにより引き起こされるハードフォークということで、ここではビットコイン・アンリミテッドのハードフォークのことです。

また、このころジハン・ウーのBitmainが製造販売しているASIC BOOSTというマイニング専用のICチップが、SegWitが実装されると使用できなくなるという疑惑が生じます。つまりジハン・ウーがSegWit導入に反対しているのは、自社の利益を確保するためなのではないかという推測がたち、彼の立場が悪くなりました。するとロジャー・ヴァーがジハンを擁護するようなツイートをし、ジハンがそれをリツイートしています。

cointelegraph.comの記事によると、ロジャーはビットコインのオリジナルのホワイトペーパーで紹介されているビットコインの像に近いのはビットコインではなくビットコイン・アンリミテッドであるとしています。また、4月22日の時点ではビットコイン・アンリミテッド派がブロックのうちの40%を生み出しています。

このように、ジハンとロジャーはビットコイン・アンリミテッドがビットコインに取って代わる可能性を失った後も継続的に推進する活動を行っていました。

マイニングプールの動き

ニューヨーク合意

しかし、5月に入り突如としてビットコイン・アンリミテッドの推進がストップします。その原因がニューヨークで行われたニューヨーク合意(NYA)です。

ジハンのBitmainを始めとする大手マイニングプール58社が集まり、全体の83.28%のハッシュパワーを占める集団がBIP 91に合意します。この内容とは、

・ノードの80%の合意に達したらSegWitを実装する

・その6カ月後以内にブロックサイズ拡大のハードフォーク(SegWit2x)を実行する

というものです。

ロジャーのBitcoin.comも公式サイト上でNYAには合意すると表明しています。NYAがビットコイン・アンリミテッドの支持を変化させるものではないとしつつも、これ以降、ロジャーのツイートにはビットコイン・アンリミテッドの話は上らなくなります。その訳は、次に述べるUAHFの登場にあります。

一方、NYAからは排除されていたビットコインのコアデベロッパーやBlockstream社について、ビットコインの取引手数料を上げて収益性を高めようとしているのはビッグブロック派ではなくコア派であるとして、批判しました。

BitmainによるUAHF疑惑

BitmainもNYAには署名したものの、NYAはビットコインコアにより妨害されていて、UASFがいまだにビットコインコアのサポートの支援を受けているとし、対抗策としてUAHFが必要だとする記事を英語のみならずイタリア語、ロシア語、韓国語、日本語などで公開しました。

つまり、2017年8月1日に起こるであろうUASFの12時間20分後ごろにブロックサイズを拡大するようなハードフォークを行い、Bitmainは短期的な経済インセンティブを無視してでもマイニングを続けることで、新コインの実用性を保証すると表明しました。

しかし、このUAHFについてはその後、なぜか情報の更新がないまま途絶えています。このことから、のちに実際に起こるハードフォークはBitmainが主導しているのではという疑惑が生じました。

ビットコインキャッシュの誕生

UASFの期日である8月1日が近づくにつれ緊張が高まるなか、ニューヨーク合意のかいもあってUASFによるビットコインのコミュニティの分断が避けられることが明らかになります。

一方で、中国の大手マイニングプールViaBTC(Bitcoin ABC)によって新しい通貨「ビットコインキャッシュ」が誕生することが明らかになりました。

ViaBTCはジハン・ウーのBitmainから資本援助を受けているため、これは以前のハードフォークを匂わす発言からも、ジハンの差し金なのではないかという疑惑が持ち上がりました。これに対してBitmainは7月24日に次のようなコメントを出しています。

リンク先より抜粋

・BitmainはViaBTCに投資してはいるが、ViaBTCは10倍の議決権を保有しているため、ViaBTCの方針はBitmainの立場を反映していない

・Bitmainはニューヨーク合意に署名した通りSegWit2xの速やかな実装を支持し、btc1のソフトウェアを運用しつづける

と表明しています。

btc1とは、コアのプログラムをもとに開発されたSegWit2x側により作成されたソフトウェアで、SegWitに賛成するか反対しているかというシグナルをマイニングしたブロック上で発することができます。もともとはBIP9により95%のブロックがSegWitに賛成していないとSegWitは実装されない予定でしたが、NYAで80%に引き下げられました。この仕組みは次のようになっています。

bit4を発するブロックが全体の80%以上になるとBIP91がロックインされ、これにより2017年11月15日まではbit1が含まれていないブロックがシステムにより拒否されるようになります。そして、BIP91によりbit1の含まれていないブロックが排除されるようになると、すべてのブロックにbit1が含まれるようになるためブロックのうちbit1が含まれているブロックが95%という状態が満たされます。これにより実質的には80%のブロックが賛成するだけでSegWitをロックインすることが可能になります。

これが2017年7月20日の17時ごろに撮影されたスナップショットです。この状態ではBitmain系のAntpoolやBTC.comなどのマイニングプールや、ロジャー・ヴァーのBitcoin.com、さらにはビットコインキャッシュを推し進めているViaBTCも参加していませんでしたが、7月21日朝にBIP91がロックインされるとBIP141に同意するシグナルを発しています。

ビットコインキャッシュの暴騰

誕生直前にBitmainが関係性を否定したことでマイニングが行われるのかという点で不安を抱えたビットコインキャッシュでしたが、誕生後2週間で暴騰しました。

その最も大きな原因として挙げられているのが、Antpoolなどの大手マイニングプールなどの参入決定です。

取引承認が正常に行われるのか疑問視されていたビットコインキャッシュが、大きなハッシュパワーによってマイニングされコインとしての実用性を持つことが保証されたため、価値が大きく上がったのです。

Antpoolなどの大手マイニングプールがマイニングを突如開始したことの原因は、マイニングの収益性が高くなることが予想されたためだとされています。マイニングの収益性を変化させる主な要素としては、マイニングのディフィカルティと通貨の価値があります。この表明の少し前にビットコインキャッシュのディフィカルティが下がっていたため、あとは通貨の価値が上がればマイニングの収益性は大きく上がることがわかっていました。

7月20日付近では、ビットコインキャッシュのマイニングの収益性(赤実線)が大きく上がったのち、ハッシュレート(赤点線)が大きく上がっているのがわかります。これは発言によりビットコインキャッシュの価値を上げさせることでマイニングの収益性を高めてからマイニングを始めるつもりだったのではないかという見方もできます。

その後もごく短いスパンでハッシュレートが変化していますが、これはビットコインキャッシュの難易度調整のアルゴリズムをマイナーが利用したためです。難易度調整のアルゴリズムは、当時は一定期間内でビットコインキャッッシュのハッシュレートが上昇すると、ディフィカルティが上がるというものでした。

このグラフのように、ビットコインキャッシュのディフィカルティ(赤点線)が上昇すると、そのタイミングでビットコインキャッシュのマイニングの収益性が低下します。収益効率のいいタイミングでビットコインキャッシュのマイニングからビットコインのマイニングへシフトするようなマイナーが多く出たため、このようなハッシュレートの変化が起きました。

一部のビットコインコア側のマイナーもビットコインキャッシュを故意にマイニングしてディフィカルティを上げさせることで、ビットコインキャッシュのハッシュレートを低下させ、ビットコインキャッシュのコインとしての実用性を低下させようとする動きまでありました。

しかし、9月に入るとビットコインキャッシュは安定して不動の地位を確立し、こうしたハッシュレートの動きはいったん収束しました。

SegWit2xハードフォーク

11月に入ると、ニューヨーク合意の既定路線であるブロックサイズを2倍に拡大するハードフォークが起こるのか起こらないのか、その大きな不安が仮想通貨界を席巻しました。

SegWit2xコインがビットコインの本流になる?

その裏で、ビットコインキャッシュにも大きな動きがありました。

怪文書

GitHub上に怪文書と目される文章が出回りました。これは「あるマイナーからビットコインやビットコインキャッシュのマイナーに向けた公開の手紙」と題された文章で、SegWit2xハードフォークの時期とビットコインのマイニングの難易度調整の時期が被っていることを指摘し、新フォークコイン「SegWit2x」誕生を一つの時期の目安として、

・それまではビットコインのマイニングを続けビットコインのハッシュレートを高め、難易度を高めるとビットコインキャッシュのマイニングに移行する

・同時にビットコインとして保有している資産をビットコインキャッシュに替える。これによりビットコインキャッシュの価値が高まるためビットコインキャッシュのマイニングの収益性がさらに高まる

ということを訴えました。詳細は不明でしたが、実際にこのシナリオ通りに事が運んだということもあり、この怪文書に意味を見いだす人もいます。

しかし、現実は11月11日に次に述べるビットコインキャッシュのハードフォークの影響で価値が上がったため、マイニングの収益性とハッシュレートが上がったということが大きく、この怪文書の影響がどこまであったかはわかりません。

ビットコインキャッシュの高騰

11月14日、ビットコインキャッシュはハードフォークをし、難易度調整のアルゴリズムを変更して1ブロックごとにハッシュレートを反映した難易度の調整(DAA)を行うことが可能になりました。

新フォークコインのSegWit2xの無償付与を期待したビットコイン高騰のなか、11月9日になるとそのハードフォークの中止が発表されました。付与がなくなったビットコインをホールドする意味が少しなくなり、代わりのアルトコインを探す人が多いなかで、ジハン・ウーは次のようなツイートをしました。

ビットコインキャッシュのハードフォークは仕様変更のためのハードフォークという見方が強いなかで、ビットコインキャッシュのハードフォークに対応しないノードが存在し、ビットコインキャッシュのハードフォークに対応しないブロックチェーンが残った場合には新フォークコインの「ビットコインキャッシュ・クラシック」が誕生する可能性があると警告するものでした。

つまり、ビットコインキャッシュからもフォークコインが生まれることを示唆し、それを取引所がすぐにでも扱うような期待をもたせることで、フォークコインが付与されることを期待する投資家たちにビットコインキャッシュを買うように促すものでした。

実際、ジハンのツイートの影響もあってか、ビットコインキャッシュは暴騰しました。しかし、結局「ビットコインキャッシュ・クラシック」は誕生しませんでした。

ジハン・ウーの戦略

ここまでの流れを振り返ってみて、ジハン・ウーの動きを整理してみましょう。

  1. 香港合意には署名したが、ビットコイン・アンリミテッドの支持を表明
  2. ニューヨーク合意には署名したが、UAHFを提唱
  3. ビットコインキャッシュへの関与は否定したものの、今ではビットコインキャッシュをメインとなって推進

このような行動の背景にはどのような戦略があるのでしょうか。ジハン・ウーはBitmainのCEOであることから考えて、Bitmainの利益とビッグブロック派の考えに従っていることは確かでしょう。

ビットコインキャッシュの1度目の暴騰の際の動きを振り返ると、時系列的には、

ビットコインキャッシュのディフィカルティが下がる→Antpoolが採掘開始を表明→価格が上がる=マイニングの収益性が上がる→ビットコインキャッシュのハッシュレートが急上昇

となっています。つまり、大手マイニングプールは参入表明によって収益性が上がることを見越して、収益性が上がったときにマイニングを開始する予定だったと考えられます。

また、ビットコインキャッシュの誕生により、マイニングプールはビットコインとビットコインキャッシュとの間で収益性の高いものを採掘する選択ができるようになった利点もあります。

そのため、マイニングプールとしては、ビットコインキャッシュとビットコイン両者がともに共存するほうが望ましいため、「ビットコインはビットコインである。ビットコインキャッシュはビットコインキャッシュである」というジハンの発言に結び付くのでしょう。そう考えると、ジハンはビットコインキャッシュの勢力を伸ばしつつも、ビットコインに取って代わろうとまではしていないのではないでしょうか。

ジハン・ウーにとっては、収益性の追求が第一義的なものでした。しかし、そのためには、現状のビットコインには問題がありすぎだと批判していたことも事実です。便利で簡単な決済を実現し、そのための決済ネットワークを構築するためにビットコインは変わらなければならない。しかし変われなかったから、ビットコインキャッシュを誕生させた。それがジハンのしたことでした。

ロジャー・ヴァーが実現させる理想

現状のビットコインの問題には、少なくとも下記のものが挙げられます。

・送金時間の遅延……ひどい送金詰まりがたびたび起こり、数時間から数日もかかってしまう現状では、便利で簡単な決済とはいえない。その点、ビットコインキャッシュでは20分ほどしかかからない。

・送金手数料の高騰……ビットコイン価格の高騰のため、ウォレット間送金する場合、ビットコインではSegWitを使っても2500円前後もかかり、ビットコインキャッシュの0.7円とは比較にならないくらい使いづらいものになっている。また、ビックカメラなどの小売店で小額の買い物をビットコインで支払おうとすると、数千円の手数料がかかる場合もあり、実用性はもはや失われている。

こうした現状は予測できたものだとして強く非難しているのが、ビットコイン・アンリミテッドからビットコインキャッシュに乗り換えて推進役を買って出ているロジャー・ヴァーです。ロジャーは、コア派は何も解決しようとしていないとして、サトシ・ナカモトの理想の実現をビットコインキャッシュに託しています。「ビットコインは一つの通貨だが、ビットコインキャッシュは真のビットコインだ」というのが、ロジャーの主張です。

実際ロジャーは、ビットコインの通貨としての役割をビットコインキャッシュに移行させるような施策を次々に繰り出しています。

まず、ロジャーの会社からはビットコインキャッシュのデビットカードが発行され、関連会社の米ビットコイン決済大手BitPayでは、これまでのビットコインに加えてビットコインキャッシュにも対応して、モバイルウォレットから決済できるサービスを始めます。一方で、手数料高騰のため、ビットコインでの利用は100ドル以上でしか受け付けないことにし、差別的な扱いをしています。

ロジャーが出資している米国最大の取引所Coinbaseは、ビットコイン、イーサリアム、ライトコインに加えてビットコインキャッシュを2018年1月から取り扱いを開始します。また、中国の取引所OKEXと、英国の取引所CoinEX(ViaBTC系列)では、ビットコインキャッシュを取引の基軸通貨に採用しました。

さらに、世界に1300台あるビットコインATMでは、ビットコインキャッシュにも対応することになりました。

このように、数多くのビットコイン関連事業の大株主であるロジャーは、一気呵成にビットコインキャッシュの普及を進め、ビットコインの本来の理想である便利で使いやすい通貨をビットコインキャッシュで実現させようとしています。

どうなるビットコイン

ビットコインもただ手をこまねいているだけではありません。

開発会社のBlockstreamでは、ビットコインのブロックチェーン上で特定の口座に改めて資金を移動させ、オフチェーンのチャネルの上で行われるマルチシグにより口座間での資金の移動を行わせ、最終的に取引が完結するとチャネルを閉じてブロックチェーン上にその情報を記録する技術である「ライトニングネットワーク」を開発しています。

これによって、小額のマイクロペイメントでも安く速く決済が可能になります。ただし、広く普及するのはまだ先の話です。

たとえライトニングネットワークが実現しても、そのときビットコインの価格がいくらまで高騰しているだろうかと考えると、手数料は相変わらず高くなるだろうと予想され、本当に実用的なものになるのか疑問が残ります。

ビットコインがここまで大きくなった立役者のロジャー・ヴァーが、その力を今度はビットコインキャッシュに使うのであれば、ロジャーの理想の実現はそう遠くないことのようにも思えます。

そうなると、ビットコインは「通貨」としての役割をビットコインキャッシュに任せて、ただ「ビットコイン」として、特別な金融商品になるのかもしれません。その徴候はすでに目に見えているのではないでしょうか。

 

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