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世界各国が独自に仮想通貨を構想

世界 地球儀

<この記事(ページ)は 12分で読めます>

2017年は『仮想通貨元年』とも呼ばれるほど、ビットコインをはじめとした仮想通貨が大きな注目を集めています。強まる仮想通貨の存在感に呼応するようにして、世界各国では国として独自に仮想通貨を発行しようとする構想が進められています。日本を含めた世界各国の独自の仮想通貨構想を確認し、今後どのような方向へ進むのか考えてみましょう。

各国が仮想通貨を構想

中国

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人口:13億7900万人

通貨:人民元

流通量(*1):4%

カード決済率(*2):NA(該当データなし)

現金流通量と対名目GDP比率(*3):NA

中国では国立銀行である中国人民銀行が、政府公認の仮想通貨を導入する動きを見せています。ICOの全面禁止を発表するなど仮想通貨に対して厳しい規制を施す中国ですが、政府直属の中央銀行が仮想通貨を発行・管理することで資金の流出や違法行為防止を狙っているようです。

イギリス

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人口:6564万人

通貨:ポンド

流通量:12.8%

カード決済率:NA

現金流通量と対名目GDP比率:3.7%

イギリスでは、ロンドン大学の研究者がイングランド銀行との議論を経て仮想通貨「RSCoin」を提案する論文を発表しました。ブロックチェーン技術の研究も進めており、イングランド銀行幹部は、決済システムにおけるブロックチェーン技術の有用性は計り知れないと述べていることから、電子技術の利用に前向きな様子がうかがえます。

 

オランダ

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人口:1702万人

通貨:ユーロ

流通量(ユーロ):31,3%

カード決済率:NA

現金流通量と対名目GDP比率:NA

オランダでは、オランダ銀行が2016年3月、ブロックチェーン・DLT(分散型元帳技術)を基に「DNBcoin」の開発をすると公表しました。ビットコインのソフトウェアを適用してブロックチェーンの実行性などを深く理解するためにこの実験をスタートさせており、あくまでDNBcoinは内部実験用のためのコインであって実際に市場に流通させるつもりはないという見解を示しています。

 

エストニア

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人口:131万人

通貨:ユーロ

流通量(ユーロ):31.3%

カード決済量:NA

現金流通量と対名目GDP比率:NA

エストニアは、独自の仮想通貨「Estcoin」を構想していることを2017年9月24日までに明らかにしています。エストニアはバルト海に面した小さな国ですが、すでに「e-Residency」という電子システムを導入しています。これは、銀行口座へのアクセスや運転免許、税金の受け取り、選挙までが1つのIDで可能になるシステムです。エストニア政府はこの「e-Residency」プログラムの一環として独自の仮想通貨を発行するようです。エストニアはSNSツールSkypeの発祥国であるなど、先進的なIT国家です。今後ヨーロッパの暗号通貨情勢をけん引していくのでしょうか。

 

スウェーデン

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人口:990万人

通貨:スウェーデン=クローナ

流通量:2.2%

カード決済率:NA (現金決済率は2%)

現金流通量と対名目GDP比率:1.7%

同じく北欧の国スウェーデンでは、スウェーデン中央銀行の副総裁が2017年9月16日、国家として独自の仮想通貨「eクローナ」を発行する可能性について検討していると明らかにしました。技術面や法整備の問題、安全策、実用性などを検証した上で導入するか否かを決定する方針です。2018年末をめどに発行の是非を決定するために、現在段階を踏んで検証を進めているようです。スウェーデンはキャッシュレス化がとても進んでいる国で、2015年の現金決済率はおよそ2%でした。仮想通貨を発行しても現金は残すとのことですが、この計画が実現すればさらにキャッシュレス化が進むものとみられます。

 

カナダ

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人口:3629万人

通貨:カナダドル

流通量:5.1%

カード決済率:NA

現金流通量と対名目GDP比率:4.1%

カナダでは、カナダ中央銀行がデジタル通貨「CAD-coin」を開発中であると発表しています。詳細についてはまだ発表されていませんが、当局はブロックチェーン技術を用いて大規模な銀行間取引決済システムを構築すること、ブロックチェーン技術への理解を深めることが目的であり、市場に流通させる予定はないと述べています。

 

ロシア

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人口:1億4400万人

通貨:ルーブル

流通量:ランク外

カード決済率:33.5%

現金流通量と対名目GDP比率:10.6%

ロシアでも、独自の仮想通貨発行の動きがあるようです。現在、ロシアの中央銀行はイーサリアムをベースとしたブロックチェーンを配備した電子決済の実験を行っており、さまざまな金融機関もこの実験に参加しています。

 

シンガポール

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人口:560万人

通貨:シンガポールドル

流通量:1.8%

カード決済率:55.7%

現金流通量と対名目GDP比率:9.6%

国際金融都市の1つでもあるシンガポールでは、仮想通貨発行に向けて「Ubin project」が始動しています。計画の目的は、シンガポールの中央銀行にあたるMASがブロックチェーン技術やその潜在性を理解することで、シンガポールドルをブロックチェーン上でトークン化する試みでもあります。今後もこのプロジェクトを拡大し独自の仮想通貨を作る土台を固めていくようです。

インド

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人口:13億2400万人

通貨:ルピー

流通量:ランク外

カード決済率:34.5%

現金流通量と対名目GDP比率:12.3%

インドでは、中央銀行であるReserve Bank of India(RBI)の警告にもかかわらず、インド国内のビットコイン利用者数は1日あたり約2500人ずつ増え、着実に増加しています。背景には2016年11月に政府が高額紙幣の廃止を突然発表したことがあると思われます。当初高額紙幣の廃止は、地下経済を締め出し、脱税を防ぐ狙いと伝えられていましたが、「インドをキャッシュレス社会に導くのが本当の目的だったのではないか」という指摘もあります。

RBIは仮想通貨に関して調査中であると発表し、ブロックチェーン技術を活用して通貨ルピーをデジタル化した「Lakshmi」という仮想通貨の創設を検討しています。ITという国の強みを生かして、デジタル環境を整えつつあるようです。

 

日本では国主体の仮想通貨はできないの?

日本

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人口:1億2000万人

通貨:円

流通量:21.6%

カード決済率:17%

現金流通量と対名目GDP比率:19.4%

では、日本独自の仮想通貨発行の動きはないのでしょうか。2017年10月3日現在、日本銀行は仮想通貨を発行するという発表はしていません。しかし、世界各国の仮想通貨発行には関心を示しており、調査を進めています。2016年11月に日銀が発表したレビュー(http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2016/data/rev16j19.pdf)では、これからの方針として「中央銀行によるブロックチェーン・DLTの活用をめぐる海外中央銀行による調査研究や実証実験の動向を丹念にフォローするとともに、自らもさまざまな視点からこの問題への考察を深めていく」としています。

そんななか、メガバンクが次々と仮想通貨プロジェクトを発表しています。まず挙げられるのが、三菱東京UFJ銀行が発表した「MUFGコイン」です。スマートフォンに専用アプリをインストールすることで、1MUFGコイン=1円としてスマホ決済が可能になるものです。2017年5月から同行役員ら約200人を対象に送金などの実証実験を開始し、徐々に規模と機能を拡大して2018年から一般向け発行を目指す計画です。また2017年9月20日、みずほ銀行はゆうちょ銀行らと共同で「Jコイン」の創設計画していることを明らかにしました。

「MUFGコイン」「Jコイン」2つの特徴として、以下のことが挙げられます。

①日本円とペッグするため、価格に変動がない。1MUFGコイン/1Jコイン=1円

②利用者同士でコインの交換ができる

③スマートフォンなどの端末に専用アプリを入れてそこから口座を作り管理する

④個人利用者同士の間で送金手数料やATM手数料が比較的安価になる

一方で、SBIホールディングスが2017年9月28日、独自の仮想通貨「Sコイン」のプロジェクトを発表しました。現在、Orb社と共同で開発を進めており、「Sコイン」を含むさまざまな仮想通貨や電子マネーを利用できる、新たな決済用プラットフォーム「Sコインプラットフォーム」の構築も発表しています。この独自プラットフォームの開発により、消費者は低コストでの送金が可能になります。今年度中にグループ内で運用を開始して利用できる店舗の拡大を進め、一般公開向けに準備を進めていくとのことです。スマートフォンにアプリを入れてそこから決済を行うという点は「Jコイン」や「MUFGコイン」と同じですが、「Sコイン」が他のコインと大きく異なる点が2つあります。

まず、コインが取引所で売買されるため、他のコインとの交換が可能であるということ。そしてもう一つは日本円とペッグするということが明記されていないということです(参考:http://www.sbigroup.co.jp/news/2017/0928_10815.html)。 もし日本円とペッグしないとなれば、価格に変動が出るためビットコインをはじめとするアルトコインのような投機対象になりますが、まだ詳しいことはわかりません。

日本で構想されているデジタル通貨は、電子マネーのような手軽さをもちつつP2Pで取引できます。銀行としては決済データを活用できるというメリットがあり、利用者の買い物履歴や送金状況を分析して商品開発や価格戦略、マーケティングに生かすことが可能です。現段階では各メガバンクが独自にデジタル通貨を構想していますが、大手金融機関の首脳は2017年10月3日午後、会合を開きました。そこでデジタル通貨については現金決済に取って代わりうるとの認識で一致、仕組みの構築では、競争よりも協調を優先すべきということで一致しました。(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21833030T01C17A0000000/)

 

今後の動向予想

今後、さらに多くの国々が独自に仮想通貨を発行していくと考えられます。なぜなら、国家の中央銀行が独自に仮想通貨を発行することには大きなメリットがあるからです。

国主体の仮想通貨を発行することで、以下のような可能性を未然に防ぐことができます。

これらのことを考えると、先に手を打って国独自の仮想通貨を作って自国の通貨や市場を守ることは一つの方法です。国主体で発行すれば、信頼性が高いので速く普及することもありえます。特に、金融リテラシーの低い日本では、運営主体のはっきりしない仮想通貨は不安でなかなか手を出せないという人も、中央銀行が発行するのならば安心して利用できるという人もいるかもしれません。

ただし、ブロックチェーン技術に関しては管理をするであろう中央銀行も調査・実験を通して理解を深めている最中であり、実現までには慎重に段階を踏むことが求められます。

 

まとめ

各国が次々と独自の仮想通貨を発行する方針を発表しています。そして、現在検討されている各国の仮想通貨はいずれもブロックチェーン技術を利用したものです。ブロックチェーンは分散型台帳とも呼ばれ、データを管理する中央管理者はいません。これがブロックチェーン技術の大きな特徴であり比較的安全であるといわれる理由です。

しかし、国が主体となって発行するのであれば、そもそも基本的には中央管理型・中央処理型にならざるをえないのではないでしょうか。今後、多くの国々が独自の仮想通貨を持つようになったとしても、結局は現在の法定通貨のデジタル版に留まるということはないのでしょうか。

国が主体となってデジタル通貨を発行することで、自国の通貨や経済を守るということができます。しかしデジタル通貨の構想から実証実験、運営までにはさまざまなコストがかかるため、メリットに対するコストが大きいと指摘する経済学者もいます。オランダやカナダの例のように、現段階で市場に流通させる予定はないという姿勢の国もあります。デジタル通貨が適用される範囲や動きをこれからさらに注意深く見ていく必要があります。

 

【参考文献】
*1・・・国際決済銀行より http://www.bis.org/publ/rpfx16fx.pdf
*2・・・日本のクレジット統計資料より http://www.j-credit.or.jp/security/pdf/h26-cashless.pdf
NA=統計データなし
*3・・・日本銀行決済レポートシリーズより https://www.boj.or.jp/research/brp/psr/psrb170221.pdf

 

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