Facebookの仮想通貨、リブラ(Libra)とは?
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最近、Facebookが独自の仮想通貨を発行するというニュースが話題になっています。
SNSの会社として知られているFacebookがなぜ仮想通貨事業に乗り出したのか?
色々な会社で仮想通貨の話題が出ていますが、ここまで大きく取り上げられているのはなぜか?
リブラ(Libra)の全貌を紐解いていきましょう。
そもそもリブラ(Libra)とは
リブラ(Libra)とは、Facebookが発表した新しい金融サービスで使われる独自の仮想通貨(暗号資産)のことです。
Facebook、新事業の開拓
Facebookは、知り合い同士で繋がるためのSNSとして全世界に20億人以上の利用者を抱えています。
ここ5年ほどで世界に名だたるSNSの企業として成長しましたが、最近は他のSNSライバル企業に押されているとの指摘も出てきています。
そんな中、2019年6月中旬にFacebook利用者向けの「リブラ(Libra)」という独自の仮想通貨プロジェクトが発表されました。
リブラ(Libra)の目的
リブラ(Libra)の公式ホワイトペーパーには、「多くの人びとに力を与える、シンプルで国境のないグローバルな通貨と金融インフラになる」というミッションが書かれています。このミッションは、以下のように具体的に2つのポイントに分けられます。
①国際送金の時間的・金銭的コストを下げる
1点目は、国際送金の時間的・金銭的コストを下げるという目的です。
従来の国際送金は、各国の法定通貨ベースで行われてきました。国ごとに通貨が異なることで、取引完了までに複数の銀行を介す必要があります。現状一般的な法定通貨の国際送金は、多大な時間的・金銭的コストがかかっています。
そこで、世界共通のリブラ(Libra)をブロックチェーンで取引できるようにすることで、レートの換算、仲介する銀行が不要になるため、早く・手数料ほぼゼロで国際送金を行うことができるのです。
また、ブロックチェーンの特性である「分散型」が公平な通貨発行、取引管理を実現させます。
②既存の金融システムから取り残された人たちを救う
2点目は、既存の金融システムから取り残された人たちを救うという目的です。
リブラ(Libra)は、金融システムを利用できない成人が世界に17億人いると指摘します。
携帯電話を持っているのは世界に10億人、インターネットにアクセスできるのは約5億人ですが、それを遙かに上回る人数です。
17億人の人たちは、資金がない・手数料が予測できない・銀行が遠い・必要書類を用意できないといった理由で銀行口座を持っていません。
口座を持たず、金融システムから取り残された人たちの多くは貧しく、出稼ぎなどで一生懸命生計を立てています。
しかし口座を持たないことで、祖国に大切な給料を送る際など国際送金ニーズは高いにも関わらず、高額な手数料を支払っています。
リブラ(Libra)はそういった課題を解決することができるのです。
登録に書類の用意や銀行に行く必要はありません。
手数料はほぼ無料で、口座を持たないことで労働の成果が減ることもありません。
必要なのは口座ではなく、スマートフォンとFacebookのアカウントだけです。
世界のすべての人に便利な金融システムを届けるという狙いもあるのです。
運営主体
リブラ(Libra)の運営主体はスイス・ジュネーブのNPO「リブラ協会」です。
現在27の企業や団体によって構成されています。(2020年運用開始までに100に拡大予定)
出典:リブラ公式サイト:(https://libra.org/ja-JP/partners/)
決済: Mastercard, Mercado Pago, PayPal, PayU (Naspers’ fintech arm), Stripe, Visa
テクノロジー・マーケットプレイス: Booking Holdings, eBay, Facebook/Calibra, Farfetch, Lyft, Spotify AB, Uber Technologies, Inc.
電気通信: Iliad, Vodafone Group
ブロックチェーン: Anchorage, Bison Trails, Coinbase, Inc., Xapo Holdings Limited
ベンチャーキャピタル: Andreessen Horowitz, Breakthrough Initiatives, Ribbit Capital, Thrive Capital, Union Square Ventures
非営利組織、多国間組織、学術機関: Creative Destruction Lab, Kiva, Mercy Corps, Women’s World Banking
Facebookは「リブラ協会」の一員という位置付けです。
運営主体のこのような構造には、リブラ(Libra)の管理者や権力が1箇所に集中しないようにする狙いがあると考えられます。
発行初期において、ブロックチェーンの取引承認はこのメンバーと2020年運用開始時までに加入したメンバーによって行われます。
技術
リブラ(Libra)を支える技術の1つは、独自のコンピュータ言語「Move」です。
リブラ(Libra)の独自の取引ロジック、スマートコントラクトを作者の意図に沿って実装するためにオリジナルの新しい言語が開発されました。
さらに、コンセンサスアルゴリズムも「ビザンチン・フォールト・トレランス合意アプローチ」という特殊なものをとっています。
分散型システムの合意形成における大きな課題、ビザンチン将軍問題への耐性を持ったアルゴリズムで、取引承認を担う最大1/3のノードに不具合が生じても正常に機能するようにデザインされています。
Hotstuffというアルゴリズムが元になっており、開発がしやすく、合意後のブロックの接続がスムーズであるという特徴があるようです。
公式ホワイトペーパーでは、一般的な多くのブロックチェーン採択されている、プルーフ・オブ・ワークよりも、高い処理速度・エネルギー効率を実現するとされています。
なぜリブラ(Libra)はここまで注目されるのか?
仮想通貨プロジェクトは数え切れないほどありますが、なぜここまでリブラ(Libra)が注目されるのか、理由を探ってみましょう。
利用者が莫大
理由の1つ目は、リブラ(Libra)にアクセスできる人の数が莫大だということです。
リブラ(Libra)はFacebookのアカウントを通じて利用できるサービスですが、facebookの利用者は全世界に20億人以上存在します。
日本のメガバンクの利用者は数千万人、ビットコインの利用者は世界で4000万人である(NHK, 解説委員室)ということを踏まえると、新たなキャッシュレスサービスとして与える影響がかなり大きいということが分かります。
提携先が豊富
「リブラ協会」についての記述でも触れた通り、リブラ(Libra)の提携先には世界で大きくビジネスを展開する会社がいくつも名を連ねています。
Visa、Mastercard加盟店でリブラ(Libra)が使えるようになれば、今までの仮想通貨では考えられないスピードで急速に浸透していくことが予想できます。
さらに、Uberで移動手段、Spotifyでエンタメ、eBayでショッピングにリブラ(Libra)が使えるようになると、生活の大半をリブラ(Libra)決済で済ませることができるでしょう。
世界が「リブラ(Libra)経済圏」になると見る声もあります。
リブラ(Libra)は裏打ちされる資産があるステーブルコインである
リブラ(Libra)は、価値を裏打ちする資産があるステーブルコインの仮想通貨です。
USDのステーブルコインとしてはテザー(Tether)が有名ですね。
価値が裏打ちされたステーブルコインの利点は、価値の安定性を高めることができるということです。
一般的な仮想通貨は価格が安定せず、決済手段や長期間保有する資産としてはリスクがありますが、ステーブルコインであれば法定通貨のように安心して使うことができます。
リブラ(Libra)の裏付け資産は「Libraリザーブ」と呼ばれ、「安定性と信頼性のある中央銀行が発行する通貨での銀行預金や短期国債など、価格変動率の低い資産の集合体」とされています。
複数の国の資産を組み合わせることで、一国の経済状況に左右されにくいという利点があります。
リブラ(Libra)から法定通貨に換算することもスムーズにできるようです。
リブラ(Libra)の懸念点
リブラ(Libra)に対して、期待する声だけではなく懸念の声も広がっています。
Facebookの安全性
Facebookは過去に数千万人分のデータを流出させる事件を起こしており、資産を扱うプラットフォームとしてはリスクがあるという見方があります。
Facebook上のプロフィールに、リブラ(Libra)残高や購買履歴が合わさると個人特定がかなり容易になり、流出させた場合のリスクは格段に上がります。
Facebookは、Facebook自体はリブラ協会の一員という位置付けで、リブラ(Libra)に関する情報は扱わないと強調していますが、不安は残っています。
国の金融政策に影響
世界の通貨がリブラ(Libra)に一元的に置き換わった場合、各国ごとの金融政策が効力を持たなくなるという懸念もあります。
各国の中央銀行は、その国の経済状況に合わせて法定通貨の流通量をコントロールし経済の健全化を図ってきました。
しかし、リブラ(Libra)の浸透によって法定通貨が使われなくなると、中央銀行の金融政策の意味がなくなってしまいます。
リブラ(Libra)は、国の経済をも変えうる通貨なのです。
マネーロンダリングに使われるリスク
さらに、マネーロンダリングに使われるリスクもあります。
リブラ(Libra)のホワイトペーパーには「Libraブロックチェーンには匿名性があり、ユーザーは実世界の本人とリンクされていない1つ以上のアドレスを保有 することができる」という記述があります。
この記述から、匿名で国際送金を行うことができたらマネーロンダリングに悪用されるのではないか、と物議を醸しています。
リブラ(Libra)の機能にこれを阻止する仕組みはあるのか、各国が規制によって防いでいかなければならないのか、懸念は払拭できていません。
運用開始は来年予定
公式からの発表によると、2020年前半に運用開始を予定しています。
それまでに、Libraブロックチェーンのオープンソース化、Libraリザーブの管理期間の設置、Libra協会の拡大などを推し進めるようです。
2020年前半まであと1年もありません。
世界のお金のあり方を大きく変えるようなこのプロジェクトに各国が規制や対応に迫られています。
日本におけるリブラ(Libra)
日本においてリブラ(Libra)はどのように扱われるのでしょうか。
日銀の見方
日銀の雨宮副総裁は7月5日、リブラ(Libra)について「国内外の当局と連携し、影響を点検する」と述べました。
さらに、価値や技術上の安全、リスク管理などが不可欠として「流通する前にクリアすべき条件は多い」と慎重な姿勢を見せました。
リブラ(Libra)が解禁されるのにはしばらく時間がかかりそうです。
金融庁の見方
金融庁は、リブラ(Libra)は法律上「暗号資産(仮想通貨)」にあたらない可能性が高いという見解に傾いているようです。
資金決済法では、仮想通貨を「法定通貨または法定通貨建ての資産ではない」としているのに対し、リブラ(Libra)は法定通貨建ての通貨だからです。
この場合リブラ(Libra)は、銀行業か、LINE Payやメルペイなどの資金移動業として申請する必要があります。
金融庁に仮想通貨としてはみられていないということは、仮想通貨に不安感を持つ人の多い日本人に支持されやすくなるかもしれません。
まとめ
一流企業が仮想通貨やブロックチェーンを活用するというニュースは増えていますが、リブラ(Libra)は中でも最も影響力のあるプロジェクトだと言えるでしょう。
仮想通貨・ブロックチェーン業界全体が変わるきっかけになるかもしれません。