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今年(2017年)の夏は、ビットコインの「ハードフォーク」に注目が集まりました。みなさんもさまざまなメディアでこの言葉を目にしたのではないでしょうか。
でも、仮想通貨のハードフォークとは何なのか、よくわかっていない人のほうが多いのが現実です。そこで、事例を交えてハードフォークのことを解説していきます。
ビットコインのハードフォークの意味とは?
「フォーク」という言葉は、「ナイフとフォーク」と同じフォークです。つまり、先端で枝分かれする、「分岐する」という意味を持っています。
ハードフォークとは、ブロックチェーンのプロトコルに規定された検証規則を緩和することによって発生するブロックチェーンの分岐のことです。
つまり、仮想通貨のあるルールを変更する場合に、従来のルールをなかったことにして新しいルールを適用させることによって、前のルールが完全に無効になります。一方で、前のルールはそのままのルールで残ることがあります。
これは、実際のお金において、発展途上国の通貨によくみられる事象です。
例えば、カンボジアでは今でもほとんどの場所で米ドルを使用することができます。
地元通貨のリエルも存在しますが、米ドルのほうが使用されています。
なぜなら、米ドルが使用されている市場にリエルという新通貨を追加した(ルールを緩和した)のですが、通貨がリエルに統一されず、米ドルもそのまま流通し続けたからです。
そのため、2つの通貨が並行して使用され続けているのです。これがハードフォークの具体例です。
ビットコインのソフトフォークとハードフォークの違いは?
では、欧州連合で使用されている通貨、ユーロの場合はどうでしょうか。
もともと、マルクやリラなど数多くの通貨を使用していたところに、それらの古い通貨の代わりにユーロという新通貨に置き換えました(ルールを厳格化した)。
その結果、現在では古い通貨が使われることはなくなり、ユーロが流通するようになりました。
このように最終的に1つの通貨に統一された状態を、ソフトフォークといいます。
ソフトフォークという言葉はおそらくハードフォークと同じくらいによく使われる言葉ですが、この2つは何が異なっているのでしょう。
2つの違いを一言でいうと、前のブロックの仕様に新しく仕様を追加するか(ソフトフォーク)、前のブロックの仕様とはまったく異なる仕様のブロックを新しく作成するか(ハードフォーク)という違いです。
仮想通貨はブロックチェーンの仕組みによって成り立っています。
ブロックチェーンとは「順序が固定された情報の入ったブロックを一定時間間隔でつなげたもの」です。このブロックの仕様を大きく変更したブロックを生み出すことをハードフォークといいます。
つまりハードフォークでは、ある一時点以降に新しく作られたブロックは元のブロックとまったく別のブロックとなるので、元のブロックに戻すことができず、互換性がありません。この場合、元のブロックの連なりと新しいブロックの連なりはまったく別の連なりとして両立し、永続的に存在します。
一方ソフトフォークは、元のブロックの仕様のルールを新たに追加することを意味します。ですからソフトフォークではブロックはすべて書き換えられることになります。この場合、ブロックの連なりは2つに分かれますが、ブロックチェーンは1つのチェーンを持つような仕組みになっているため、片方のチェーンが淘汰されてすぐに1つのチェーンに収束します。
ビットコインのハードフォークはどんなリスク(影響)を与えるの?
ビットコインなど仮想通貨にハードフォークが起こると、どのようなリスクがあるのでしょうか。
リスクは大きく3つ考えられます。
1つ目は、ハードフォークをきっかけに取引所が一時停止してしまうために、仮想通貨を決済として使用している店舗や取引所に混乱が生じることです。
取引所は、ハードフォークが行われることによる混乱を避けるために一時取引を停止することがあります。
この場合、取引が行えない状態となるので、仮想通貨を決済に使用しているWEBサービスや店舗は決済機能を使用できなくなります。
2つ目は、リプレイアタックが起こるということです。
リプレイアタックとは、ユーザーがログインするときに不正アクセスされることです。
イーサリアムのハードフォークのときに起こった事象でリスクとして認識されています。そのため、ハードフォークをする際はセキュリティ体制を整えることが必須なのです。
3つ目は、ハードフォークによる書き換えは理論上「どんな変更も可能」なので、悪意ある書き換えによってシステムに支障が起こる可能性があるということです。
ブロックチェーンの強みは「書き換えができない」ことなので、仕様の変更が自由に行えるということはブロックチェーンの強みを否定していることになり、ブロックチェーンとその関連サービスの信用を低下させるものとなるのです。
このように、仮想通貨にハードフォークが起こることによるリスクは数多く考えられます。
ハードフォークが起きるときは状況をよく見極めながら、場合によってはウォレットに避難させるなどの対処を取って対応することが必要です。
ビットコイン(仮想通貨)の過去のハードフォーク事例
これまで、どのような状況でハードフォークが行われてきたのでしょうか。ここでは代表的な事例を2つ紹介します。
イーサリアムの「The Dao事件」によるハードフォーク
イーサリアムは過去に何度かハードフォークが行われてきました。そのなかでも特に有名なのが「The Dao」のハッキング事件です。
イーサリアムはもともと、契約情報を分散型台帳システムで記録するためのプラットフォームで、「イーサリアムを使用することによって新しいサービスを作る」という目的のために生まれたシステムです。そのため、イーサリアムを利用したさまざまなサービスが生まれました。
なかでもドイツの「The Dao」が特に注目を集めました。「The Dao」のDAOは、Decentralized Autonomous Organization(分散型自立組織)の略で、The Daoはファンドマネージャーのいらない完全な資本主義型の投資ファンドを形成するサービスを提供することを目指しました。そしてその斬新な仕組みは非常に期待され、多くの資金を集めることになりました。
しかし2016年6月17日、The Daoのシステムがハッキングされ、調達した資金の半分の約75億円をハッカーに持ち逃げされてしまったのです。もともとイーサリアムの脆弱性に危機感を持っていたイーサリアムの管理団体は、イーサリアムのブロックチェーンを書き換えることにしました。つまり、ハッキング以降の取引をなかったことにするためにブロックチェーンをハッキング前に戻すことにしたのです。その対処の結果、ハッキングの記録がないチェーンができることになったのです。
ブロックチェーンとは、「書き換えが行われない」ということに特徴があります。そのためイーサリアムのブロックチェーンを「書き換えた」ということは、本来のブロックチェーンのルールを破ったことになります。
そこで、ブロックチェーンの「書き換え」に強く反発する勢力は、ハッキングされた事実が残っている本来のブロックチェーンを使用し続けました。このチェーンが現在「イーサリアム・クラシック」という名前で仮想通貨として流通しているものです。
こうして、ハッキング事件が原因でブロックチェーンの仕様を書き換えた結果、本来のブロックチェーンと異なるチェーンが両方存在し続けることになりました。この状態がハードフォークです。
ビットコインのスケーラビリティ問題を理由としたハードフォーク
ビットコインでもハードフォークが行われています。ここでのハードフォークの要因はデータの容量の問題です。
ビットコインのブロックチェーンでは、各ブロックの容量が1MBと決まっています。しかし、その容量では1日に60万件しか取引データを処理できません。そのため日々増加しているビットコインを用いた取引のデータ増加にブロックチェーンが追いつけなくなってきたのです。(→ブロックチェーンの仕組み)
そこで、何らかの対策が必要になりました。その案の1つに取引情報(トランザクション)を入れる容量を大きくする案(1MBから2MB、8MBへ)があります。このようにブロックチェーンの仕様を変更して容量を大きくし、元のブロックと異なるブロックを作ることもハードフォークです。
一方で、この問題の解決策としてソフトフォークの案も挙げられていました。ソフトフォーク案は取引情報を入れる箱であるブロックチェーンの中に入れる情報を圧縮するというものです。結果として両方の案が採り入れられましたが、他にもさまざまな意見や提案があり、ビットコインのスケーラビリティ問題は収束にもう少し時間がかかりそうです。(→【UASF】ビットコインのフォークとは?(8月1日に何が起こる!?))
ビットコインのハードフォークについて、まとめ
ビットコインをはじめとして、仮想通貨はいまだ成長途中の通貨です。現在のようにさまざまな仮想通貨でソフトフォーク、ハードフォークが頻繁に起きていることがその証しです。
フォークのような変革が何度も重なることによって、仮想通貨という仕組みが出来上がっていくのだと考えられます。ですから今後の仮想通貨の動向、発展にますます注目していくべきでしょう。
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