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このところ、「ビットコインのフォーク問題」が仮想通貨の世界を騒がせています。「(2017年)8月1日にビットコインのフォークが起こるとビットコインが暴落するから、ビットコインは売ったほうがいいらしい」などという話が出回っているのです。
しかし、「ビットコインのフォーク問題」を理解できている人は多くありません。
一体、8月1日に何が起こるのか?
「ビットコインのフォーク問題」とはなんなのか?
それに備えて、ビットコインを持つ私たちはどのように対処すればいいのでしょう?
ビットコインのブロックサイズ問題
ビットコインのフォークのきっかけは、「ビットコインのブロックサイズ問題」です。
まずは、ビットコインやブロックチェーンの仕組みを簡単におさらいしましょう。
世界中の人たちが送った「ビットコインを送金したい」というリクエストは、10分ごとに1つのブロックにまとめられ、承認されます。
新しくできたブロックは過去のブロックの鎖につなげられ、1本のチェーンになっていきます。これが、ブロックチェーンの仕組みです。
ここで問題になってくるのが、ブロックサイズの問題です。
ビットコイン自体がデータでできており、「ビットコインを送金したい」というリクエストもすべてデータです。
そして、それらのデータを格納するブロックももちろんデータですから、容量に制限があります。
現在のビットコインでは、1つのブロックの容量が1MB(1000KB)と決まっています。
下のグラフは、ビットコインが運用を開始して間もない2010年から、2017年7月現在までの、1日あたりの送金額(青線)と1つのブロックサイズの平均値(黄色線)の推移を表したものです。
2011年までは100KBにも満たないくらいでしたが、ビットコインの利用者が増えて、送金のリクエストの数が増えるにつれて、1つのブロックの平均サイズが急増しています。
そして、2017年7月現在の1ブロックあたりの送金データ量の平均は約960KBとなっており、上限の1000KB(1MB)にほぼ達しています。
ブロック内のデータが常に1MBを超えた状態になると、どのような問題が起こるのでしょう?
例えば、
・本来なら10分程度でできる送金に、何時間もかかってしまう
・手数料が少額の送金リクエストは、いつまでたっても処理してもらえずブロックに入れられないため、いつまでたっても送金されない(マイナーは手数料の多いリクエストを優先して処理するので) ・ブロックに入れられない送金リクエストが積み上がってしまい、エラーが発生する |
このような問題が発生すると、ビットコインのシステムの機能や信頼が損なわれてしまいます。
ブロックサイズ問題を解決するには?
そこで、このブロックサイズ問題を解決する方法として提案されているのが「Segwit」と呼ばれる方法です。
Segwitとは、Segregated Witness(署名の分離)と呼ばれるものです。
簡単にいうと、現在1MBの容量を持つブロックの中に、普通のクライアントは使わない電子署名の情報を含めないことにすることで、取引情報の容量を実質的に増やそうという試みです。
Segwitがアクティベート(有効化)されるには、マイナーの95%の賛成が必要です。しかし、現状ではこの95%の賛成は得られそうにありません。
なぜなら、Segwitがアクティベートされるとマイニングの仕様が変わるため、マイニング業者にとってはマイニングに使うコンピュータの仕様変更や手間にコストがかかるからです。
そこで提案されているのが、「UASF」というものです。
UASFとは?
UASFとは、User Activated Soft Forkの略で、日本語にすると「ユーザー主体のソフトフォーク」ということになります。
簡単にいうと、取引所やウォレットがUASFを支持し、マイナーに対してプレッシャーをかけることで、マイナーにSegwitを承認させようという意図があります。
UASFについては2つの提案がされています。BIP-148とBIP-149です。
8月1日に関係の深いのはBIP-148です。
BIP-148は、「Segwitのアクティベーションの義務付け」です。
具体的にいうと、8月1日を境に、BIP-148を採用している取引所やノード、ウォレットは、Segwitシグナルの付いていないブロックの受け取りを拒否するというものです。
すると、従来のブロックは無効になるので、マイナーたちは従来のブロックをマイニングするのをやめて、BIP-148(UASF)に賛同し始めるだろうというシナリオです。
8月1日以降に起こる可能性
では、UASFによって8月1日以降、何が起こると考えられるのでしょうか?
考えられるパターンは3つあります。
①チェーンの分岐が起こらないパターン
8月1日より前に、95%のマイナーがSegwitのシグナルを開始すれば、Segwitが有効になり、チェーンの分岐はそもそも起こりません。従来のブロックチェーンがアップデートされる形になります。
また、8月1日以前に51%のマイナーがBIP148に賛成する場合もチェーンの分岐は起こりません。
②チェーンは一時分岐するが、やがて1本に収束するパターン
8月1日以降、51%のマイナーがBIP148に賛成すれば、一時的に2つに分かれたチェーンはやがて1本に再編成されます。
なぜかというと、ブロックチェーンは一時的に分岐しても短いものは破棄されるという決まりになっているからです。
Segwitのシグナルが付いたチェーンが51%のマイナーによって支持されるので、従来のチェーンは破棄されます。
③チェーンが2本に分かれる状態が続くパターン
8月1日以降、従来のブロックチェーンをマイニングするマイナーがBIP148を支持するマイナーより大きなパワーを持つなら、チェーンは従来のものとSegwitシグナルの付いたチェーンの2つに分岐し続けます。
ブロックチェーンは一時的に分岐しても短いものは破棄されますが、従来のチェーンを支持するマイナーが新しいチェーンを支持するマイナーよりも大きなパワーを持つ場合、新しいチェーンのほうが短くても破棄されません。
なぜなら、新しいチェーンにとって、「Segwitのシグナルが付いていないチェーンはそもそも無効なチェーンである」ためです。
新しいチェーンにとっては古いチェーンはそもそも存在していないので、分岐もしていないのです。
古いチェーンと新しいチェーンがそれぞれ別のルールで動くことになるのです。
私たちにはどのような影響があるのか?
①のように、チェーンの分岐がそもそも起こらなかった場合は、何事も起こらなかったかのようにビットコインのブロックサイズ問題が解決されます。
私たちからすれば最も好ましい解決方法です。
問題は、②や③が起こった場合です。
もし②のように一時的にチェーンが分岐して、その後1本に収束したら、チェーンが2本に分かれていた期間に古いほうのチェーンにされた送金は、古いチェーンが無効になれば、無効な送金として破棄されてしまいます。
そうすると、送ったビットコインがどこにも届かずになくなってしまう危険性があります。
もし③のようにチェーンが2本に分岐する状態が続くとしたら、従来のビットコインと新しいビットコインの2種類が生まれることになります。
私たちが持っているビットコインの送金リクエストを送った場合、そのトランザクションが2本に分かれたチェーンのうち、どちらのチェーンに組み込まれるのかわからなくなる可能性があるのです。
さらに、取引所やウォレットが新しいビットコインをサポートしていない場合、送金したと思ったビットコインが新しいチェーンに組み込まれていたとしたら、どの取引所やウォレットでも受け取ることができないために、ビットコインを紛失してしまうことになります。
私たちは8月1日をどのように迎えるべきなのか?
8月1日以降は上記の3つの可能性が考えられます。もちろん何も起こらない可能性もあります。
しかし、手持ちのビットコインを守るためにとるべき対策は以下の2つです。
【1. 取引所や外部のウォレットにビットコインを置いたまま8月1日を迎えない】 つまり、CopayやBreadwallet、もしくはレッジャーウォレットやペーパーウォレットなど、自分で秘密鍵を持てるウォレットに保管します。 【2. 8月1日以降、状況が落ち着くまでは取引所やウォレットからビットコインの送金を一切行わない】 |
手持ちのビットコインを守るために、以上の2つはやっておきましょう。
また、8月1日以降のビットコイン価格がどうなるかはわかりませんから、もし価格の下落が不安ならばアルトコインに変えてしまうのも手でしょう。
まとめ
8月1日以降にならないと、取引所やウォレットのビットコインの扱いについてはどうなるかわかりません。
一番安全なのは、取引所やオンラインウォレットからビットコインを自分の手持ちのウォレットに移して保管しておくことです。
8月1日の直前になると、取引所から自分のウォレットに送金する人が急増し、トランザクションが混み合う可能性が考えられますので、自分のウォレットに送金する場合は余裕を持って行いましょう。
また、8月1日の直前に慌ててビットコインを売ってアルトコインに変えようとした場合も、トランザクションが混み合う可能性があるので、期日に余裕を持った取引を行うことをお勧めします。